塾無し中学受験は可能なのでしょうか?
実際に塾無しで中学受験を経験した人たちの体験談を知りたいと思い、まずはこちらの書籍を読んでみました。
大手中学受験塾には通わず都内難関国立中学に合格
小学生には勉強以外にも経験すべきことがたくさんあり、それを犠牲にするような大手塾を中心とした中学受験のあり様はなんだかおかしい、との思いから中学受験の常識に挑戦された記録です。
筆者の非常にロジカルで簡潔な文章がテンポよく、海外留学経験をお持ちということで「日本の常識」から一歩引いて俯瞰されているのが印象的です。たとえば、海外の人からすると15歳の高校受験ですら、子どもが勉強一本に打ち込むには「早すぎる」と見られる、というのは衝撃的でした。
中学受験はゴールではなくスタート。余力を残しておくべき
中学受験で勉強が苦行になるほど頑張りすぎることで、中学入学後には「もう勉強などしたくない」と勉強嫌いになってしまうことは避けなくてはならない、と筆者は述べています。これには全面的に同意です。
私の周りにも「自分は中学受験の時は優秀だった」と過去の栄光をよく語る人がいます。たしかにいわゆる「地頭が良い人」ではありますが、何というか、「大人としての重み」があまり感じられない気がしていました。
小学生時代に早熟であっても、中学入学後に努力を続けられず伸びなくなってしまったという典型例なのでしょう。
一つの事に専念しすぎない。幅広く経験することが「あと伸び」に繋がる
私もアメリカ育ちの友人から、海外では日本のような「部活動」が無く、シーズンごとに様々なスポーツを幅広く楽しむのだと聞いたことがあります。
だから、こちらの本でも紹介されていましたが、海外出身の人が日本の部活動や少年スポーツチームなどの「楽しむこと」よりも「厳しさ」を優先した指導を見ると「まるで仕事のようだ」と驚くそうです。
これは昨今よく言われる「非認知能力」の重要性を考えると、たしかに注意すべき点だと感じます。
認知能力はIQを始めとする数値化できる能力であり、非認知能力とは数値化できない能力を指します。たとえば、自己肯定感・粘り強くやりぬく力・判断力や行動力・リーダーシップ・協調性・想像力などが挙げられ、非認知能力の高い人ほど、人生を豊かに生きることができると考えられています。
この非認知能力は乳幼児期から学童期に大きく伸びるとされており、この時期に子どもの好奇心を尊重し様々なことを主体的に体験することが大切です。
当然ながら中学受験では認知能力を問われますから、あまりに中学受験に集中し他の経験を切り捨ててしまうのは、その後の人生にとって必要な栄養素をそぎ落としてしまうことなのかもしれません。
具体的な対策方法
筆者が息子さんの中学受験で利用した主な方法は下記の通り。
Z会 中学受験コース
四谷大塚 予習シリーズ
家庭教師(プロ)で主に国語
個別指導塾
息子さんは少年野球チームとバイオリンを小6まで続けられたとのこと。
塾無しというより、大手中学受験塾を利用せず、という形で、ご家庭や息子さんに最適な方法を合理的にカスタマイズされたようです。
実は筆者は東大・京大ダブル合格に輝いた大変優秀な人。中学受験の経験こそ無いものの、スポット利用した算数のプロ家庭教師に「自分が教えてもお父さんが教えてもあまり変わらない」と言われたとのこと。
このように書くと「結局、親が優秀だから子どもに勉強を教えられただけでは」「子どもも元々優秀だっただけだろう」と思われるかもしれません。実際書籍レビューでもそのようなコメントが散見されました。
たしかにその一面はあると思いますが、私がこの本から読み取れたのは、もっと本質的な「物事に対する考え方」という点でした。
常識を疑い、自分たちにとっての最適解を見極める
筆者がしたのは、以下の3点です。
「何のために中学受験をするのか」という目的の明確化
「入試問題で何が問われるのか」過去問から目指すべきゴールを分析
「そのための方法はなにがあるか」を冷静に判断
つまり、「中学受験をするならとりあえず塾探しから」という当たり前の常識をまずは疑うところからスタートしたのです。
中学受験に対して「塾にどうにかしてもらおう」という受動的な姿勢ではなく、あくまで「自分たちはどうするか」という能動的な姿勢で臨んだとも言えますね。
こうした姿勢は、実際に勉強するお子さんにとって、非常に良いお手本になったのではないかでしょうか。
なぜなら子どもの頃は「言われたとおりに素直に取り組む」子どもほど褒められる傾向がありますが、大人になると主体性が大切になってくるからです。
中学以降は親の手を離れていきますから、小学生時代に親と二人三脚で受験を乗り越え、親が主体的に物事を判断していく姿を目の当たりにできたことで、息子さんはきっと物事への主体的な向き合い方を学べたのではないかと感じます。
ちなみに後に息子さんは東京大学に合格されたとのこと。
賢い親から賢い子が生まれるのは、遺伝だけでなく、こうした「物事の考え方」を身近に学べるからではないかと個人的には思いました。
まとめ:自分たちにとってのベストな方法を見つける
筆者も、必ずしも息子さんの中学受験がずっとスムーズにいったわけではなく、試行錯誤したり失敗したり、またつい熱が入り過ぎてしまったりしながら、その都度立ち止まってよく考え、最後まで息子さんに伴走されました。
特に模試ではなかなか結果が出ず、やはり大手中学受験塾との差を感じたそうです。
しかし、入試は試験当日に試験で合格ラインを超えられるかが全て。模試は学習のペースメーカーとして参考にはなっても、それ自体が合否を決めるわけではありません。
そのように物事の本質を見失わず、迷った際にはプロの家庭教師の先生に相談したり力を借りたりしながら、しかしあくまで自分たちの軸をしっかり持って乗り越えてこられたのです。
中学受験のためには受験専門塾に通う人が大多数です。
しかし正解は一つとは限りません。
それぞれのご家庭やお子さんによって最適な方法は違って当たり前です。
少しでも違和感を感じた場合には、筆者のように一度立ち止まり、目指す子育てのゴールを一度俯瞰して「自分たちにとってのベストな正解」を見つけていこうとする姿勢が大切だと感じました。